Itoshiro River

Click here for the Wild Trout Trust Itoshiro English version of Salmo Trutta’s article “The Itoshiro River – A Japanese Case Study”


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Itoshiro Blog

Tenkara Enso


 

ワイルド・トラウト・トラスト寄稿資料

Overview

石徹白川(いとしろがわ)の紹介(Introduction of Itoshiro river)

南北に長い日本のちょうど真ん中あたり、日本海に注ぐ九頭竜川の上流部で合流する大支流が石徹白川である。その水源は白山連邦の南端から流れ出ている。九頭竜川水系はその大半が福井県内を流れるが、石徹白川の最上流部約20㎞は岐阜県内を流れる。ここに石徹白という歴史の古い小さな集落があり、現在は約270人が暮らしている。この流域の河川管理は石徹白漁業協同組合が担っている。

 

日本の河川管理事情 (General information of river administrations in Japan)

日本ではほとんどの河川を漁業協同組合が管理している。この組合は漁業法に基づき漁業者が設立する団体であり、各県の知事から認可を受けて県の指導に従う運営が通例である。本来は漁を生業とした漁師で構成される組織だが、石徹白漁業協同組合には漁師と呼べる組合員は一人もいないのが現状である。漁業協同組合は漁業権の認可される条件として、指定された漁業権魚種の増殖と環境保全の義務を課せられているが、現実には増殖と環境保全のどちらにおいても、大して効果が上がっているとは言えない。その理由は、日本では漁業者及び遊漁者(釣り人)に対しての、漁獲制限はほとんど課されることがないので、漁業協同組合が県の方針に従いどれだけ種苗放流をしても、それを上回る乱獲構図により生態系はどうしても荒廃してしまう。このことは種苗放流に偏った行政の指導方針に大きな要因があると言うしかない。

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石徹白集落の全景

 

釣り人からの提案(Start of C&R in Itoshiro river

今から15年前、そのような河川管理に疑問を持った釣り人が声を上げました。もっと河川環境の保全に重点を置いた、自然再生産ができる生態系を復活させようと、キャッチ&リリース(以下C&R)を義務付けた釣り場を作りましょうと提案したのです。それが上手くゆけば釣り場としてのクオリティと河川環境の両方が向上できるはずだというものでした。石徹白漁業協同組合はその提案を受け入れ、管内を流れる小支流の峠川にオールC&Rの釣り場を設けたのです。場所の設定には、何よりも魚たちが産卵できる環境を優先したことでその効果はすぐにあらわれ、その年の産卵期には産卵床が激増したのです。そしてそれから10年以上にわたり、養殖魚は一切放流していないにもかかわらず、管理流域内で魚の密度が一番高いエリアとなっている。この成功によって、親魚が秋まできちんと残れば生態系は復活できることが実証されたのです。15年前はC&Rを認めたくない人たちから「いったん鉤にかかった魚はリリースしても死んでしまう。」と言われたものですが、今ではそのようなことを言う人はいなくなり、漁業協同組合員の意識も大きく変わって、産卵床の造成、またその後の大規模な人工産卵河川造りにとつながり現在に至っています。

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日本の河川には土石流の対策としてこのようなエンテイがたくさん造られている。産卵のために川を上ってきた魚はこれ以上、上流に行けなくなってしまう

 

日本のC&R事情 (General information of C&R in Japan)

日本では、魚釣りにおいて釣れた魚を食べることは当然というのが社会通念であり、釣った魚を放すことはまったく理解されない国でした。「食べないのなら何のために釣りをするの?」が一般的な考え方です。そのうえ、日本には遊びの釣りを管理する法律がなく、すべて漁業法のもとで管理されており、指導する行政もC&Rなどは漁業的にありえないという考え方になるのです。そのため行政は長年にわたり、釣り人が釣りたいだけ釣って、カラッポになってしまった川に、養殖の種苗を放流すればいいという指導を続けてきました。ようするに、日本の河川管理には親魚を残す発想がまったくないのです。そして今でもほとんどの河川でこのような管理がなされています。

このような日本において、C&Rを導入することはまだまだ大変なことで、一漁協の管理面積のほんの数%をC&R区間にするだけでも、かなりハードルは高いのが現状です。

 

人工産卵河川 (How to make spawning ground in Itoshiro river)

日本には急勾配な河川が多く、ほとんどの川の上流部はいくつもの砂防堰堤等で寸断されているため、この堰堤が魚たちの生態系にとって大きな障害になっている。特に産卵のために上流を目指すイワナやヤマメには深刻な障害となり、秋になると堰堤直下は行き場を失った魚たちの溜り場となってしまう。石徹白川では、このような生態系を補助するために、本流の第一堰堤下流の右岸に、人工的な産卵用小河川を造成した。川幅1m~1.5mで全長200mとけっこうな規模であり、秋になると多くの魚たちがここを利用します。とくにイワナは産卵においてこのような細流を好むので、毎年10月下旬から11月にかけて大量のイワナで溢れます。このような管理手法は、最初にそれなりの工事が必要となるが、一度作ってしまえば毎年産卵期前のメンテナンスで長年にわたり効果を維持することができ、大変持続性の高い管理法といえます。そして何より、ここで再生産され命をつないでゆくことが、より石徹白川に適合する遺伝子が引き継がれ、強い野生魚の増殖が実現します。また、このような循環型の管理には、社会全体に対する大義が生まれるので、それが関係者のやりがいにつながります。この人工河川事業も、最初から100%の成果が得られたわけではありません。最初は手探りで始めたものも、2年目3年目になるとイワナが好む流速などもなんとなく分かってきますし、孵化した後の仔魚や稚魚期の生息環境も考えられるようになってきます。毎年このような改善を重ねてゆくことで、人工河川の産卵環境は確実にレベルアップしています。4年目を迎えた今では、自然の小川と区別がつかないほどになっています。そして、生態系の循環が簡単に観察できる場所ができたことも、副次的効果といえるかもしれません。

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石や流木を使い小さな堰を作り、産卵に適した水深と流速調整を確保しているところ

 

石徹白川で対象となる魚種はイワナとアマゴですが、この2種の産卵場所の好みはかなり違います。イワナは産卵場所の選定条件は思いのほか緩い流れですが、とにかく細流を好みます。いっぽうアマゴは川床の構成と流速へのこだわりは強いのですが、細流である必要はないようです。つまり石徹白のように、本流から支流に誘導するタイプの産卵場は、イワナには利用されやすいがアマゴには今のところあまり利用されていません。ただし、サケ属の母川回帰性を考えると、今後はここで生まれたアマゴの利用が殖えてくるかも知れません。ちなみに、アマゴは本流部の水通しが良いところに砂利を敷くだけでもよく利用してくれます。水通しのよいところは泥や砂が少ないので、産み落とされた卵は石の隙間により深く入り込むことが、アマゴにとって重要なことかも知れません。産卵後、実際に卵を掘り起こしてみると、アマゴの卵はびっくりするほど深く埋まっていますが、イワナは少し掘るだけで簡単に見つけることができます。ひょっとしたら、産卵時期が1ヶ月ほど遅いイワナに、産卵床を掘り返されてしまうことに対するアマゴの防御なのかもしれません。このことは、イワナ同士の掘り返し対策にも応用しており、産卵場所の川床の構成を、10センチ以上の大きな石の層をできるだけ厚くすることにより、水通しを良くしておけば卵は石の隙間のより深い所まで入り込み、後からきたイワナが掘っても被害が少ないと考えています。造成に際し、魚では動かせない石の層をしっかり作っておくことが重要と考えます。

石徹白川にはイワナのほかに、人の手によって放流されたアマゴも生息している。アマゴはヤマメの亜種で、ヤマメにはない朱点があるのが特徴
石徹白川にはイワナのほかに、人の手によって放流されたアマゴも生息している。アマゴはヤマメの亜種で、ヤマメにはない朱点があるのが特徴

 

もう一つ大切なことは卵が孵化してからのことです。人工産卵河川が当歳魚に利用される期間は意外と長く、孵化後の稚魚期をここで過ごします。長いものは次の産卵期まで1年間過ごすものもいますので、そのための環境も保たなければなりません。産卵期が終わったら水が枯れてしまうような場所ではダメです。石徹白ではこのようなことを考慮し、湧水が多い場所に造成してあるため、もしも本流からの取水が途絶えたとしても、最低限の水流は確保できるため、夏の渇水期でも稚魚たちは安全に過ごせます。このような好条件の場所はなかなか少ないと思われるので、造成を計画する時は数箇所からの取水ルートを確保したほうがよいでしょう。

自然は多くのことを教えてくれます。私たちは自然から学びながら環境保全と関わってきましたし、これからも関わってゆくつもりです。

 

小学校つりクラブ(Fly Fishing lessons in Itoshiro elementary school)

石徹白地区の小学校は全校生徒10人です。3年生から6年生の子供たちに週1回、フライフィッシングを教えて4年目になります。学校はC&Rエリアの近くのため、子供たちは歩いてやってきます。つりクラブなので、もちろん釣りも教えますが、我々が子供たちに本当に伝えたいことは、ふるさとのこの素晴らしい自然環境は何物にも代えがたいもので、そこに生息するすべての生き物は、ここに暮らす人々の大切な仲間であることと、その自然を未来につなげてゆくことを大切と考える人になってほしいということです。そして、やがてこの子たちが石徹白地区を担ってゆく大人になるのです。

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石徹白川にC&R区間を実現するために活動を始めた「在来渓魚を殖やす会」の会長である斉藤彰一さん(右)が、石徹白地区の小学校でフライタイイングを子どもたちに教えているようす

 

在来イワナ個体群の保護(How to preserve the indigenous Iwana)

日本のイワナは、分類的には1種類とされていますが、各水系ごとに独自の進化をしてきた個体群が生息し、その外見的特徴にもずいぶん違いがあることが確認されています。ところが、長年にわたる放流主体の管理により養殖魚との交雑が進み、在来の個体群が絶えてしまった生息地が多くなっています。さいわい石徹白川水系には、過去に放流されたことのない支流が何本かあり、その奥にひっそりと在来個体群が生息しています。それは一見して血が濃いとわかる特徴のあるイワナたちで、鑑定の結果、未発見のDNA型群と証明されています。このような生態系では、違う遺伝子をもつイワナの密放流が深刻な打撃となります。釣り人が良かれと思い下流で釣った魚を移植放流するケースもあり、そのような行為がたった一回されるだけでも、遺伝的な純潔は簡単に絶えてしまいます。このようなイワナたちを守る活動も大切と考えます。

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石徹白川の在来イワナ

 

文化の伝承 石徹白てんから研究(Traditional Tenkara in Itoshiro

石徹白には昔から「てんから」と呼ばれる伝統的な釣り方が伝わっています。山野に自生する竹から3m弱の一本竿を作り、馬の尾の毛を6本5本4本とテーパーに縒ったものを、竿と同じくらいの長さのラインにします。その先に90㎝くらいのハリスを結び、先端に毛ばりを一本だけ付けるという、いたってシンプルな道具を使う釣りです。かつて、石徹白のような山村では自給自足が原則だったため、村の男は皆「てんから」で魚を釣ったのでしょう。仕事を終えた夕方、ちょっと川に行き家族の食べる分だけ釣ってくるのにもってこいの釣り方だったはずです。このような「てんから釣り」も、今では地区に3人しかできる人がいないという。このままではこの古いスタイルの「てんから」は確実に絶えてしまうことを危惧し、石徹白てんからを伝承してゆく活動もはじめました。もちろん昔ながらのスタイルにこだわり道具から再現しています。また子供たちの「つりクラブ」でも、地区に伝わる伝統文化としておぼえてほしいと思い紹介しています。

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石徹白川のイワナ

 

命をつなぐ川づくり (Our Goal )

我々が石徹白で行っている活動の全てに共通しているテーマは「命をつなぐ」ということです。生き物たちが命をつないでゆける自然環境を未来に引き継いでゆくことが、最も大切なことだと考え行動しています。人が自然を管理すると、どうしても人間本位の偏った環境になりがちです。人間にとって利用価値のある生き物だけがいくら繁栄してもダメなのです。本当の自然環境保全とは、人間が何もしないことなのかもしれませんが、個人で今すぐ実践できることとして、私たち一人一人が自然に対し、できる限りダメージを与えない関わり方を意識することではないでしょうか。私たちはこれからも石徹白から「命をつなぐ川づくり」という言葉を発信してゆき、日本中の河川管理にこの考え方が根付くことを願っています。